4月12日事件直後に祇園にいた話

近代美術館で村山知義
http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2012/390.html
を見て出てきたのがおそらく13:20頃だったと思う。(もう既に事故は発生していたことになる。)
 
疎水端の桜並木の美しさを堪能してからいつものように白川沿いを歩いて南へ下る。
華頂短大の入り口付近で先を行く男性が「祇園で大きな事故があった」と言ってる声が耳に入り、そういえば救急車の音がひっきりなしに祇園方向へ向かっているのが聞こえる。
気にせず白川沿いの美しい花々の光景を楽しみつつ祇園のほうへ。
そこも観光客がいっぱい。一眼レフを構えて花々や流れる水の光景を撮っている若い外国人男性の邪魔をしないようよけてあげながら、すれちがいざま笑顔で無言の会話「すばらしいね」。
 
花見小路を下り四条通へ出ると一転騒然。
救急車が西へ向かうのが見え、四条通の南北の歩道に人だかりがあってなにごとかをじっと見守っている。警察官?も多く出ている。
いったい何があったんだろうと気になりながらも二つ目の目的地へ向け四条通を東へ折れ何必館へ。ここでマルク・リブーの写真展を鑑賞。
http://www.kahitsukan.or.jp/frame.html
↑これなかなかよかったです。おすすめ。
 
受付のおねえさんに「何があったんですか?」と声をかける。おねえさんも「私もわからないんです。ここを離れられなくて・・」との返事。
ここはペンシルビルの1階から5階へ順々に上がっていきながら展を鑑賞する。
その最上階に立つと、何機ものヘリコプターが上空を旋回する音が上から威圧するようにひっきりなしに続く。
真ん中のちいさな中庭から楓の木を透かして青空が見えるのだが、その切り取られた青空をヘリが横切っていくのが見える。
しばらく見てるとバサバサっと大きな羽音がして烏が建物の天辺にとまるのが見えた。
 
何必館を出て、四条京阪方向へ歩くも、花見小路の角に交通規制が敷かれていて西方向へは歩けないといわれる。
いずれにしても四条の駅からは乗れまい。京阪三条まで歩こうと決め、そこから小道を通って北へ。
途中ふたたび白川にぶつかる。そこにむらがっている観光客ら(外国人らしき一行もいっぱい)は絵になる桜の風景に夢中で、写真を撮ったり撮られたり、事故に全く関心ないようす。若いカップルで女性が「ケータイ検索すればわかるかな?」みたいなことを言っているのは耳に入った。
 
そこから縄手通に出てちょっと上がったところでシルバーのワゴン車が電柱にぶつかっているのが見え、そのまわりをロープでかこってある。
私はその時点では四条通でなにか大きな車の衝突でもあったのかな?ぐらいに想像していたので、この事故は同時におきた別の事故なんだろうと思って、まさかその車が当の事故車両だとは思いもしなかった。
あとで思い出すと、ロープのそばに野次馬がたかってたし、女性二人の声で「あれが?」「あれよ」みたいなことを囁いてたし、その車をケータイ写真で撮っていく人が何人かいたのだ。
 
で、その車を横目で見ながら縄手通を北上。すぐそばのセブンイレブンでお金をちょっとおろす。
路上、近所のおばさんたちが輪になってしゃべっている。
道路脇でNHKのクルーが打ち合わせしている。
空にはまだヘリコプターが数機みえるがもう帰途についているようす。
 
そこで14:30頃。ちょっと予定まで時間があるので遅い昼ご飯を近くのお蕎麦屋でとることにする。
ちいさなお店が団体客で満杯になってて、お店のおばちゃんは応対に必死。どうやら事故のことはな〜んにも知らないようす。
私の向かいの席に座った男性の一人客がどこやらへ携帯電話をかけた。「え?そう」「それはひどいな・・」などと喋っている。
私もそこで初めてiPhoneを操作して事故の速報を知った次第。その時点では12人に突っ込み4人が心肺停止とのことだった。縄手通?え?ここやん。じゃさっきの車がその?!
 
団体客が引き上げてしばらくして、近所の人らしいおばちゃんが何か食材を持って入って来、「近くで事故があった」と言っている。
「いやーそう?」「どこで?」などと店のおばちゃん。「そこや、そこやで。セブンイレブンのとこ」。つまりこの近所の人も、車が最終的にぶつかったところしか把握していない様子なのだ。
 
三条から京阪特急に乗り、四条駅から乗りこんできた女性二人組がもっと生々しい話をしているのを耳にする。中年女性二人で、一人は達者な日本語にかすかな外国語なまりがまじる東南アジア系らしきひと。私のすぐ前の4人掛けの向かい合わせの席に座り、先に座っていた(おそらく初対面の)老夫婦を相手にしゃべっていた。
 
彼女らの話を総合すれば・・南座の前で待ち合わせて八坂神社・円山公園方面へ行って花見をする予定だった。先にお昼ご飯を食べようということになり、お昼を食べて外に出てくるとえらいことになっていた。事故の瞬間は目にしていないが、道路に人が倒れているのを見たという。「かわいそうに若い男性だった」。
彼女らは「殺人」と決めつけていて「秋葉原」という言葉もまじっていたと思う。なりゆきをずっと見ていたのか、もう花見をする気分ではなくなり、そのまま四条京阪駅から帰ることにしたという。大阪の人だとか。
 
老夫婦のほうは事故のことを全く知らなかったという。平安神宮で桜を見てきた。祇園のほうへも行こうかと思ったが疲れたから帰ることにした。「行かなくてよかったねぇ」と奥さん。
 
京阪の車窓から木津川と桂川がぶつかるあたりみごとな桜並木が見えるのを、老夫婦が中年女性二人組に教え、女性たち「せめてこれぐらいでも見て帰らな」などと四人さざめきながら見ている。
 
あとから事故の詳細を知ると、被害を受けた方々、近所で働いていた人もあり、近郊の大阪からの観光客もあり、遠く関東からの観光客もあり、けが人のなかには外国からの観光客もあり、まるでこの花見の季節、平日昼間にあのあたりを歩いている人たちのサンプル集団をとったみたいだ。
あれだけどどっと人が集まるなかでの十数人だから、本当に気の毒だったとしかいいようがないのだけど・・
 
何必館から京阪四条の駅まで歩いて帰るつもりだったので、何もなければ私も問題の交差点を渡っていた。事故車両が通り抜けるのが1時間半ほど遅れてたら、私も巻き込まれる可能性はあったのだ。
(とはいえ怖いということは全くない。最近見た『ルートアイリッシュ』にWRONG PLACE WRONG TIMEという言葉が出てきたけど、ほんとに場所がちょっとちがい時間がちょっとずれるだけでまーったく何も知らず花の京都をフツーに観光して帰った人がいっぱいいるんだろうということがなんだか不思議に感じる。)
 
ぶつかった車はいかにも‘軽’らしく車体がぺしゃっとひしゃげていた。
あんな軽そうな車が、そんなに多くの人を殺す凶器になりうるとは・・。