レジ係二題

たびたび立ち寄る近所のスーパーに、中国名の名札をつけたレジ係の女性がいる。
発音からして日本生まれのOverseas Chineseではなさそうで、たぶん留学生か出稼ぎに(あるいは結婚で?)こちらに来ているか、なんだろうけど、日本語のコミュニケーション能力に全く不自由はないし、接客のようすやレジ仕事の端々に見受けられる鋭さなどから、そうとう頭の良い人だろうなぁ…と想像する。
ひょっとしたら本国ではすごいインテリで、レジなんかに(レジを馬鹿にするわけではないけど)いるべき人ではないのではなかろうか? 外見もきりっとした、すごくすてきな女性。
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たぶん能力を認められたのだろう。しばらくすると彼女の名札に「主任」だかなんだか店内で責任ある地位にいることを示す肩書きが加えられた。
それはたぶんめでたいことなんだろうけど、その後、彼女が他のレジ係さんたちにすごく激しい口調でなにごとかを言っている場面を目撃したことがある。
内容はわからないが、幾人かを叱りつけ、なにごとか文句を言いながら、レジとどこか(店の奥)を往復し、レジまわりの機械などを処理し、ひとりで奔走している。
その、彼女の叱責を聞く何人かの店員のなかで、日本人の(このひともよく見かける)おばさんレジ係の表情がすごかった。
あきらかに「フンっ!何よ!」って顔をしているわけ。
あんたみたいな若い女に(「しかも中国人に」と思っているかどうかはわからないが)、なんで客の大勢いる前でこんなふうに怒鳴られないといけないのよ! ふてくされた態度で、むすっと黙って腕組みしたまま、何も手伝おうともせず、むしろ目にふてぶてしい薄笑いを浮かべつつ顎を上げ気味に彼女のほうを軽蔑したような態度で(上目使いの怨みの目ではなく上から下を見下げる目なのよ)ねめつけている。「あんたなんかに何言われたって平気よ!」って虚勢かもしれないけどね。
中国人女性のほうはそんな雰囲気が読めないのか、それとも本来真面目でだれにどう思われようがやるべきことはやるべきと信念を持っているのか、とにかく目前の問題解決に必死なのか、意に介したようすはなく…。
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ま、しかしこんなことは日本人の店員同士であってもあることだろうし、そこになにごとかを見て取ろうとすることじたい、わたしの目が曇っているということかもしれないが…。
この近所は働いている外国人が(かなり昔から)多くて、往来で中国語や韓国語のやりとりを聞くことなどがすご〜く多いのだが…。
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それとは別の日…。
これもよく立ち寄る近所の安売りお菓子屋さん(近頃ものすごい進出ぶりの大手チェーンの店ではなく他に聞いたことのない店名のちいさな店)で朝のうち買い物してると、そこの女主人(わたしよりちょっと年齢上ぐらいのおばさん)が、独り言のように「だれかレジに入ってくれるひとはいないだろうか。手伝ってくれてたひとがやめてしまったので、わたしがいないとレジがからっぽになってしまう…」みたいなことを言う。
え?それってわたしに言ってる?
…そのようにも聞こえてしまった。ちょうどわたしなんて、そういうお手伝いにぴったりの層に見えたのだろうし…。
店を出てしばらく、うーんそうやなぁ〜と考える。
わたしの仕事は朝からぴっしりというわけではないし、午前中だけのバイトとかでやろうと思えばできるだろうか? すごく暇そうな店だし、ひとりでぼけーっと(それこそ文庫本でも読みながら?)留守番してるくらいでいいのだろうし、レジ打ちなんてそれほどむずかしくないだろうし…。
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…とかなんとか、そこで店番している自分の姿を想像しながらしばらくかなり真剣に考えたのですが、やっぱりやめにしました。
あのときではなく、いまなら…。仕事がめちゃくちゃ暇なので受けてしまったかもしれません…。
小学生の頃までは、実家の酒屋で親を手伝って店番ぐらいはしたのですけどね。
むしろ立ち飲み客が来たときに「お酒をついであげる」のが得意ワザ(?(笑))でしたが。