サムライの日

日差しが強くて風のきつい日でした…寒いんだか暑いんだかわからん。しかし夜になるとちょっと肌寒くなってきた。
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南条新太郎(南條という表記もあり)という昔の俳優さんの顔が、わたしにとって標準的な“さむらい顔”です。目がきりっとして鼻筋通った端正な顔でぜったい悪いことなんかできそうにない(笑)生真面目な雰囲気。そのぶん強烈な個性に欠けるうらみがあって遂にスターになることはなく脇役が多かったような…。市川雷蔵なんかとよく共演してたと思うけど、主君あるいは御家を大事に思っている忠実な家来とか、善良だけどだまされているお殿様とか、正義感あふれる同心とか…時代劇に必ず出てくるそういう役回りを振られていたように記憶してます。(もちろん時代劇では、あと悪役顔の伊達三郎とか、さむらい顔でもちょっともっとアクの強い杉山昌三九とか、破天荒な羅門光三郎とか、そういうひとも好きなんですが…)。
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昼間の電車でたまたま4人がけの座席の前に座ってた中学生ぐらいの男の子二人連れ(どこやら私立の学校の制服を着てた)。二人とも、美少年というほどキレイキレイな顔つきではないのだが、「どこかで見たことあるような顔やなぁ…」と思いつつちらちら観察していると、ひとりは丸顔で色黒ぎみで目は細め、ひとりは細面で色白ぎみで目はぱっちりとしてめがねをかけていて、それぞれタイプがちがうんだけど、二人とも眉がくっきり、口元きりりとしてて、礼儀正しい賢そうなしゃべりかたをして、ついに似ているひとの名前は思い出せなかったのだが、武者人形の衣装を着せるとか、稚児さんの衣装を着せるとか、あるいは剣道着とか、そういう和の雰囲気がぴったりな顔なんだ…と思い当たった。時代劇顔というか、若い子でそういうのを見るとなんだかうれしいというか…。アイドル顔だけが美しいわけではないと。
それから乗り換えた電車では座席は満員。つり革につかまって立ったのだけど、その目の下に座っていた初老のおじさん、なんか着ているスーツとかネクタイとか鞄とか、わたしの目にもけっこう高級なものと見えておしゃれな雰囲気なんだけど、ずいぶんお疲れのごようすで、身も世もなく寝入っておられる。しかもそれが、上を向いて、口を上下に開いて、真剣に寝てはるんですね。そして、その表情がまた!…眉根を寄せて、閉じた目の縁から涙まで流して、それこそ断末魔のような苦しげな顔に見える…(笑)。そのひとの顔つきといえば、頬骨ごつめ鼻ごつめ目は大きめで髪はすっかり灰色で、つまりはこちらも時代劇の俳優顔。たとえば善良で御家大事で一番先に悪役に斬られる老中といったところで、まるで「無念なり〜!」と口あけて死んでいくところのようじゃ…(着ているスーツもそれこそ老中職のひとが着る裃のようなええ生地やし…)とか、ひそかに可笑しがっておりました。
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帰りはずいぶん遅くなったのだけど、その車内では、ぶつぶつなにごとかをつぶやきながらあっちへふらふらこっちへふらふら千鳥足でずーっと電車のなかを歩いてって運転席のすぐ後ろまで来て、そこに座っていたべつの乗客に絡んでいる平手造酒がおりましたな…。絡まれたひとはしきりに「空いてる席に座れ」と言うのだが、酔っぱらい氏は立ったままでひょろんとその乗客に覆い被さるようにして話をしている。下りていくときも二人連れになったので、どうやらもとから知りあいの二人だったらしい…。
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最後はサムライ話ではないのだが…。
いつも電車に乗るときは回数カードとかICカードとかを使うのだが今日はたまたま残高がなかったので券売機で券を買おうとしていた。と、背後を通りかかったおばさんにいきなり腕を掴まれる。「なにごと」と振り返ると、ちょっと美人顔(目ぱっちり眉くっきり)できれいな色の洋服着てて声も美しいおばさんが、わたしにノーマイカーデー・フリーチケット(通用一日限りで地下鉄、バス、どの区間乗っても何度乗ってもそれ1枚でいけるチケット。大阪では毎週金曜日がノーマイカーデーのキャンペーンのためいつもよりは安めにフリーチケットが買えるのである)を差し出して「これ、今日中使えるから使い」と言うのである。「タダで乗れるで」って。
う〜ん、なるほど、さすが商都のおばさん?合理的というかちゃっかりしてるというか、おせっかいというか(笑)。自分が使うぶん使いきってしまったら、あとは別のひとにあげれば、その別のひとも必要なだけ使えるもんな。かくして朝から晩まで無駄なくチケットを何度でも使えると…(ひょっとしたらそういう使い方は禁止されてるのかもしれないが…定期券じゃなく記名なんかないのでわかりゃーしないのである)。
これまでそういうことを思いつかなかったわたしがうっかり者でした。しかしまったく知らないひとに「これ使い」というのは、自分ではやらないので少々びっくりした。(ま、でも、たとえばコンサートとか映画とか美術展とか、余った前売りチケットなんかがあれば、絶対無駄にはしないもんな。ダフ屋が出てるようなイベントならダフ屋に売ることもあるし、あるいはチケット売り場に並んでる人とか会場入り口にいる人なんかをつかまえてあげたりする)。
わたしのつかったのは200円区間だけで、最後の改札出たのは11時過ぎ。もうあんまり「今日」は残ってないけど、それでもまだこのチケット使うひといるかもしれないなぁ…と思って(誰もいなかったけど)券売機の目立つ位置に置いてきました。
これもまぁ、サムライ話にこじつければ昔ながらの長屋的庶民の助け合いでしょか。